2019年上半期のマイベスト!「アマンダと僕」⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

実は同じ劇場で全く別の映画を観ようと出かけたところ、7月20日〜公開だったことが判明。仕方なく、あまり関心のなかった本作を選んだところ、まさか今年上半期のベスト作品になるとは!人生ってつくづく、偶然の積み重ねだなあ〜と思った次第です。

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24歳のダヴィッドは、公園の庭木を剪定したり、旅行者にアパートの部屋を貸し出す仕事などをしながら、日々気ままに生きています。イギリス人の母親が幼い頃に父と離婚して以来、姉と共に父子家庭で育てられました。だから、高校で英語教師している姉とは結構仲良し。シングルマザーである姉の家にも頻繁に出入りし、7歳の姪アマンダを時々、学校に迎えに行ったり・・・と良好な関係を築いています。

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そんな、何の変哲もないけれど、穏やかな日々が永遠に続くと思っていたある日、突然の無差別テロで姉を失います。残された姪のアマンダと共に途方に暮れるダヴィッド。壮絶な体験と悲しみに二人はどうやって向かい合っていくのでしょうか?

 

事件が起きるまでの日々が、パリの風景と共に「これでもか!」というくらい丁寧に、そして繊細に描かれていきます。

印象的なシーンやセリフがいくつも出てきます。

出色なのは、英語教師である母が持っていた「Elvis has left the building」という本について尋ねるアマンダに、優しく、そしてとても詳しく説明をする母娘のシーン。何気なすぎて見過ごしていましたが、この本のタイトルと母娘のやり取りが、ラストシーンの伏線になっています。

そして、車の免許がなく、くたびれた自転車に乗っている姉を「早く免許を取れよ!」とからかいながら、ダヴィッドが、姉と並んでパリの街を自転車で疾走するシーン。

「ちょっと待ってよ!」と言いながら、二人は抜きつ抜かれつで、自転車を走らせるのですが、このシーンも後半でうまく活きてきます。

 

アマンダにとって歳の離れた兄のような存在だったダヴィッドですが、彼女の後見人(要は養女として育てるかどうか?)になるかという選択を迫られた時に怖気付きます。そりゃそうです。それまで、気ままな生活を謳歌していた24歳。7歳の女の子の人生を預かるには若すぎるのです。

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夏の日差しが降り注ぐパリの風景は変わらないのに、前半で描かれる3人の生活と、後半、大切な人がいなくなった後の空虚な世界がとのコントラストが見事です。

ダヴィッドの苦悩、子供であるアマンダのやりどころのない気持ち、そして彼らを取り巻く人々。それは共にテロの犠牲となり、トラウマを抱えると共に右手の感覚を失ってしまったダヴィッドのガーフルレンドだったり、父との離婚以来、会うことを拒んできたロンドン在住の実母だったり、父の妹である叔母だったり・・・。誰もがそれぞれの事情を抱えながら、ダヴィッドとアマンダの哀しみに寄り添おうとしてくれるのです。

 

アマンダからのどんな問いかけにも真剣に答え、決して逃げようとしないダヴィッドも見上げたものですが、やはりこの映画の主役はアマンダなんでしょう。何と言っても原題が「アマンダ」ですから!

まだ幼い彼女の悲しみや苛立ち、そしてダヴィッドも驚くほどの強さが、交互に現れる。とてつもないリアリティ。そして、現実を受けて止め、生きていこうとする姿に涙を抑えることができません。思わず彼女を抱きしめたくなるような瞬間が何度もありました。

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クライマックスはラストのウィンブルドン

昔、テニスをかなり熱心にやっていたと想像される(ここは細かくは描かれません)ダヴィッドのため、そして実母に孫であるアマンダを見せるために、姉が取ってくれたチケット。3人で行くことは叶わなかったけれど、アマンダは初めて祖母アリソンと出会います。「ママのママだよ」とクールに母を紹介するダヴィッド。「おばあちゃんだよ」なんて言い方はしません。そして「アリソンっていい人ね」という感想を漏らすアマンダ。「アリソンは叔父さんのママでもあるんでしょ?」なんて大人なやり取りなんでしょう!これだから、フランス人って人々は本当に侮れませんわ。

試合中、劣勢な選手の姿を見て、突然に泣き出すアマンダ。そして「Elvis has left the building.」というあのセリフを口にするのです。この捻りが効いたラスト。映画を見た人にしか分からないと思うのですが、このシーンとセリフ、伏線、そしてアマンダの表情は、ここ数年観た映画の中でも、ダントツにナンバーワンの素晴らしさです。

 

実は先日、たまたまウィンブルドン男子決勝をテレビで見ていたForest。ジョコビッチフェデラーといういつもの顔ぶれだったのですが、2セット目で明らかにジョコヴィッチが劣勢に見えたForestは「また、フェデラーが優勝か」と飽き飽きした気持ちでチャンネルを変えてしまったのです。翌日、「ジョコビッチウィンブルドン史上、最も長い試合を征して優勝」という記事をネットで見た時の驚きときたら!

「やはり、何が起こるかわからないスポーツ」がテニスなのだという思いを強くしたのと、この映画のキーになっている「Elvis has left the building.」がいつも起こり得るわけではないのだ!諦めてはいけない!という人生訓を得ました。

涙から一転、徐々に広がっていくアマンダの笑顔を決して忘れることはないでしょう。

辛いけど、アマンダに強さをもらいたい時、何度でも観たくなってしまう作品です。