「エモい」という感情

先日、鎌倉の川喜多映画記念館前で待ち合わせた後輩が、「さっき人力車のお兄さんがお客さんに"ここは白黒とかのエモエモな映画を上映しているところなんですよ~”って説明してました。。。」と言ってましたが、「エモい」とは一体何なのだ?

ちょっと調べてみたところ、こんな意味のようです。

1980年代のアメリカで広がったロックミュージックの一つのジャンルであるEmo(エモ、イーモウ)から派生した言葉と言われている。Emoという名前自体も感傷的、情緒的を意味する英語emotionalを略したもの。「エモい」は、本来の音楽ジャンルとはもはや別のニュアンスに発展し、「ノスタルジック、懐かしい、郷愁的、感傷的、レトロ、感動的、哀愁漂う、得も言われぬ、もの悲しい、しみじみする感じ」を表現するために使われる。

Forestくらいの年齢になると、何でもかんでも「エモさ」の対象になってしまうわけで、ふと耳にする音楽や、久しぶりに見た懐かしい風景などに、思わず涙ぐんでしまうこともしばしば。

2021年から鎌倉&東京の2拠点生活を始めて、15年ぶりに見る鎌倉のあちこちで、幼かった頃の自分を見つけて、ウルウルすることばかりなんですが、Forestにとって第二のエモい場所と言えば、父方の祖母が住んでいた「大磯」に他ならない。

元々は鎌倉に住んでいた祖母と伯母(父の姉)が大磯のテラスハウスに引っ越したのは、もう50年以上前。なので、Forestにとってのおばあちゃんの家=大磯であり、毎年正月の里帰り&夏の帰省先だったわけです。

祖母が亡くなってからも、伯母を度々訪れていたものの、大学受験を経て大学生になると、毎年正月は八幡宮でバイトすることになったのもあり、めっきりと大磯から足が遠のいていた。一人で住んでいる伯母のことを気にかける余裕もなく、自分のことばかり考えて生きていたこの20年。

矍鑠(かくしゃく)とした伯母も、さすがに90を超えて血圧が高い。。。という連絡が、大磯町のケアマネさんから弟である父にあったものの、持病を抱えた彼が大磯まで行くのも困難。結局は近くに住む従弟の手を借りたのですが、私も伯母のことが気になり、およそ4年ぶりに彼女を訪ねたところ、まさに「エモさ」炸裂だったわけです。

大磯には車で行くことが多かったので、駅周辺の風景はよく覚えてないのですが、今回はプリンスホテルに泊まったこともあり、窓外に広がるロングビーチのプールを見ては涙。

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流れるプール!水泳を習っていた泳ぐの大好き少女だった私にはまさに天国のようなプールでした。そして、生ステージを観た当時のアイドル達。。。田原俊彦、マッチ、聖子ちゃん、河合奈保子、荻野目洋子、シブがき隊、工藤静香浅香唯などなど。。。今では信じられないような近距離で、今と時めくアイドルのステージを観ることができたのです。のどかな時代ですね。ロングビーチの入り口には、その夏のステージを務めるアイドルの大きな顔写真と日付が掲載された大看板がずらりと並び、「うわ~、何日には誰が来るんだ!行きたい!」とワクワクしていたものです。

後はもう、祖母&伯母が住んでいた白い家を見ただけで、エモかった!何も変わってないもんだから。でも、鎌倉と一緒で、大磯の住宅街や駅前にも、ちょこちょこと拘りがありそうな、お洒落カフェや雑貨店が出来ていて・・・。

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いっと、このブログを書いてるカフェでかかってきたのが、ヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」というForestにとってのノスタルジックソングで、音楽までエモかよ!?と一人突っ込む。

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肝心の伯母はというと、いや~お元気。

昭和4年生まれというから、もう92歳のはずなんですが、ともかく昔話のディテールがすごい!同じこと何回も聞かれたり、「あれ?さっきと話微妙に変わってるな~」ということもありましたが、まあ92歳だったら普通でしょう。Forestも人のこと言えないし(笑)

「昔のことはね、よく覚えているわ」という彼女。生まれ育った鎌倉よりも、はるかに大磯暮らしの時間が長くなりました。「ここ(大磯)は誰も干渉してこないから良い」って・・・そんなに鎌倉は周りの干渉が煩わしかったのだろうか?(汗)

鎌倉に住んでいたのはもう50年以上前ですが、やたらと「松林堂(本屋)」の名前を出してました。よく家に配達してもらっていたようです。あとは中華の「二楽荘」と「くろぬま」。「くろぬまの子供たちはみんなK大出てて優秀なのよ~」とか。(彼女は人の学歴の話が大好きwww)昨年無くなったことを告げると、残念そうでした。そう考えると、老舗っていうのも残るのは大変なんですね。

昔はただの田舎町(失礼!)で何にもなかった大磯ですが、最近は探索したいお店も増えてきました。町の開拓がてら、もっと頻繁に伯母を訪ねたいな。私と彼女が共に過ごせる残り時間が少ないことは明らかです。「いつか行こう、いつでも会える」と、今までやり過ごしてきたのが悔やまれる。

自分の方が高齢なのに「寒いから気を付けてね。何もおもてなしできなくてごめんなさいね。」としきりに言う伯母に、またも目頭を熱くしながら大磯を後にしたのでした。

あの町はヤバい。行くだけ涙腺が緩むときている。

歳とっていくとますます、この「エモい」という感情と付き合っていくことになるでしょう。思い出は増えていく一方なので当然だけど。

 

 

「狼たちの午後」★★★★☆

川喜多映画記念館で開催中の「崩壊と覚醒の70年代アメリカ映画」特集上映。

70年代の作品をこうしてスクリーンで鑑賞する機会があるのは有難い!

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以下、ストーリー。

うだるようなある夏の午後(原題が意味する「Dogday afternoon」)、ブルックリンの銀行に強盗が押し入る。素人くささ丸出しの彼らは、出だしからトラブルに見舞われ、杜撰な計画は早々に暗礁に乗り上げてしまう。まず仲間の一人が怖気づいて逃げ出し、残る二人のソニーとサルはなんとか銀行占拠には成功するものの、金庫を開くとあてにしていた大金は他に移された後で無く、しかも手間取っているうちに通報が行ったのか、あっという間に警官隊に現場を取り囲まれてします。結果、2人は人質を取って銀行に籠城するという最悪の選択肢を選ばざるを得なくなった。。。

ソニーは元銀行員で従業員の事情にも通じ、銃を手にしつつも手荒な手段を取ることを選ばない。もはや果たすべき目的も叶わず、唯一の望みは安全に脱出することしかない。しかし彼らは大量の警官隊に追い詰められ、集まったマスコミに問い詰められ、そして野次馬たちには何故かヒーローのように祭り上げられていく。。。

これが1972年実際に起きた事件を元にしているというのだから、驚きです。

主人公のソニーとその相棒サルは、共にベトナム帰還兵という設定。

この時代のいわゆる「アメリカンニューシネマ」の登場人物たちは、ベトナム帰りで精神的、身体的に何らかのトラウマや傷を抱えていることが多い。

ソニーとサルにベトナムでの経験がどんな影響を及ぼしたのか?具体的には語られませんが、「警察にはお前がベトナムで勇敢に戦ったと話してやるから、絶対に捕まることはない」というように、ちょこちょこと、二人がベトナムで戦った元兵士であるという伏線が出てきます。

軽い気持ちで計画した銀行強盗。

金を奪ってさっさと退散するつもりだったのに、二人の計画はことごとく狂っていきます。坂を転げ落ちるように事態は悪い方へ、予期せぬ方へ。。。と向かっていくのです。

 

もはや後に引けない。真夏のうだるような熱い午後。エアコンも止まった銀行で、汗だくになって焦り狂っていくアル・パチーノの演技は見事です。

 

なぜ彼らが銀行強盗なんていう無謀な手段を取ってしまったのか?

特に相棒であるサルはセリフもほとんどなく、何かきっかけさえ与えれば銃をぶっ放しそうな、得体の狂気を隠し持っているように見える、ちょっと不気味なキャラクターです。

しかし、そんなサルを常に気遣い、優しく声をかけるソニー

二人の間にはベトナムで何か特別なエピソードがあったのかも知れない・・・などと、思わされる描写です。

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ソニーを演じたジョン・カザールアカデミー賞最多ノミネートを誇る名優となったメリル・ストリープと婚約していましたが、二人が共演した「ディア・ハンター」を遺作として42歳の若さで死去。。。

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婚約当時のジョンとメリル

今、存命だったら87歳!アル・パチーノが今年82歳というのも驚きですが。

映画でも彼は悲劇的な最期を迎えるのですが、実生活でも早世しているのが辛い。

 

…本題に戻って。

人質たちとの会話、マスコミ、警察との交渉など、そのすべてに当たるのがパチーノ演じるソニーです。

事態がもはや自分の手に負えなくなってきても、どんどん要求をエスカレートさせていく様が切ない。

自分達の目的が一体なんだったのか?分からなくなり、どんどん空回りしていく。

BCMも殆どない本作の大部分は、アル・パチーノの姿に占められていると言っても過言ではありません。彼が必死に叫び、走り、汗だくになって人質や警察に対峙する姿が映画を引っ張っていく。まさにアル・パチーノの独壇場です。

 

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こんな感じでソニーは頑張る。

ネタバレになるのですが、映画のラスト。

事件がソニーとサルの望まない形で終結した時、彼らには一瞥もくれずに、背を向けて解放を喜び合い、それぞれの家族の元へと戻っていく人質たちの後ろ姿をじっと見つめるソニーの瞳が悲しい。

ある一定の時間を「犯人と人質」という異様な関係で過ごしたことから、両者の間には何か特別なシンパシーが生まれたように見えましたが、もちろんそんなものは幻想。

 

事件が終われば、自分達の身の安全しか考えないのが人間なのです。それは当然だし、分かってはいるのだけど、あの時、一人でも人質の誰かがソニーを振り返って、哀れみの視線でも、こわばった笑顔でもいい。見せてくれていたなら、ソニーも少しは浮かばれたかも知れません。

 

2時間強、まるで自分が「Dogday afternoon」に居合わせて、この硬直したドラマの一員になったような、そんな緊迫感でした。おかげで観終わった後はグッタリ。体力・気力共に充実している時におススメする映画です。

 

 

2年ぶりの更新!そして2022年初投稿!

注)本ブログにおける「Forest」は本名に由来する私の呼称です(笑)

 

2007年に始めたこのブログ。

Forest最大の趣味であり、仕事でもあった「映画」の鑑賞記を、備忘録も兼ねて綴ろう・・というのが当初の目的でしたが、多趣味&移り気な私は、ブログのカテゴリーを「韓流ドラマ」「K−POP」「バレエ」「グルメ」「旅」・・・と限りなく広げていったのでした。

前職(韓国始めとするアジアドラマ&映画買い付け)が多忙を極め、2012年にソウル事務所への派遣が決まると、いつしかブログを書く間もなくなり、日々の生活に流されていきました。

振り返るとソウル滞在時は、人生で最も沢山の韓国ミュージカルを鑑賞し、最も多くの韓国人スターに会い、最も大量のソジュ(焼酎)を飲み、韓国カルチャーの洗礼を浴びまくっていた頃。

ブログに書き残すネタには困らなかった。

でも連日連夜の会食で、酒まみれになっていたForestは、焼酎&サムギョプサル、ビール&チキンを極めすぎて、人生最重体重を記録するなどの体たらく。

地道なブログ書きという作業からすっかり遠ざかってしまったのです。

だって常に酔っ払って深夜に帰宅していたから。(お恥ずかしい!)

 

ブログを始めて今年で15年。

2012年の一時中断から7年後の2019年に、場所を「FC2」から「はてなブログ」に移して再び筆を取りましたが、またしても挫折。

誰もが想像できなかった「コロナ渦」の中で、再び何かを書き残そうとPCに向かっています。

きっかけは、2004年に韓国語教室で知り合ってから、およそ18年近い付き合いになる友人Sの言葉。

「Forestは飽きっぽくて興味の対象が次々と変わるけど、ハマり方が一々深いのよ。そして、世の中的なブームが来る前に、いち早くハマってることも多い。それらを書き残しておけば、Forestがやってきたことの記録にも、証明にもなるよ!」と。

確かに。。。今まで色んな仕事もして、色んな国に行き、色んなものにハマってきました。その一つ一つをディープに追求する癖があるものだから、一過性のブームであっても、それなりに知見を蓄えちゃったりするのですよね。

というわけで!

友人Sのアドバイスもあり、Forest的な鬼門だった「天誅殺」も明けた2022年新春、再びブログ、スタートです!

これはもう、辻仁成の「Jinsei Story」(結構好きなんですよね、彼のエッセイ。最後まで読ませてしまう筆力はさすがです)並みの更新頻度と、読者を惹きつける文章を目指したい。

いやしかし・・・。

久しぶりに文章書くと、鈍ってるのが良く分かりますね。

執筆もトレーニングだわ。。。

村上春樹氏が、職業作家として毎日の執筆ページ数と時間を決めて、きっちりとこなしているという話を、彼のエッセイで読んだことがあるけど、たゆまないトレーニングが日々の執筆活動を支えているというわけですね。

いきなりのハイペースでは息切れするだろうから、ゆっくりと、でも着実に・・・というのが2022年の目標。

今度は筆を折らないように、細く長く続ける所存です。

 

追記:久しぶりに2007年の映画鑑賞記録見てたら、「え!こんな映画見たっけ?覚えてないわ〜」という作品のオンパレードでしたわ。だから備忘録って必要なのね。

 

 

世界で最も美しいバレエ「アンナ・カレーニナ」

本場のヨーロッパ以外で最も多くのバレエファンを抱える日本。

しかしながら、その殆どはロシアのボリショイ、英国のロイヤル、パリオペラ座というメジャーなバレエカンパニーがお目当ではないでしょうか?

これらのカンパニーは毎年のように日本公演を果たしています。

Forestも偶然にエイフマンバレエのチラシを手にするまでは、そして、バレエ友達のSさんが誘ってくれなければ、今回21年ぶりの来日公演を観る機会を逸していました。

エイフマンバレエは、1977年にサンクトペテルスブルグで振付家ボリス・エイフマンによって創設されたバレエ団。それまでの古典プログラムとは一線を画し、「巨匠とマルガリータ」「チャイコフスキー」「アンナ・カレーニナ」など、ロシア文学の登場人物や個人にスポットを当てて、彼らの人生や感情を深堀。長身の美男美女ダンサーが繰り広げるアクロバティックな舞台は美の極致で、観客の心を掴んで離しません。

1990年に初来日公演を果たしたものの、その後数回の公演をしてから、来日が途絶えてしまっていました。「白鳥の湖」「眠り」などの古典バレエをこよなく愛する日本人バレエファンには、まだまだ理解が難しかったのでしょうか?

とはいえ、地元サンクトペルグではチケット入手が最も困難な超人気カンパニーとのこと。入団規定は、男性184センチ、女性173センチという高身長というのですから、その舞台はダイナミックそのものです。

 

今回Forestが観たのは「アンナ・カレーニナ

主演のアンナ役は1997年生まれの22歳!もはや人間とは思えない超美女のダリア・レズニクちゃん。「ちゃん」付するのが憚られるほどの色香を撒き散らしていました。これで22歳か。。。末恐ろしい。

こう見ると、ちょっと22歳の幼い感じもあるかな。

Forestの娘でもおかしくない年齢です。

「ダリア・レズニク」の画像検索結果

こちらがアンナの夫カレーニン役のセルゲイ・ヴォロブーエフ。

渋いおじさんに見えますが、彼も1986年生まれの33歳。ロシア人、老けすぎです。

アンナが夫と子供を捨てて走る青年将校ヴロンスキーを演じたダンサーよりもスタイル、ルックス共に優れていて、正直Forestは彼の方が全然好みでした。ともかく足の長さと腰位置の高さが半端なく、こんな人と毎日踊ってたら気がおかしくなる!とさえ思いましたわ。

で、こちらがヴロンスキー役のイーゴリ・スボーチン。写真はカッコイイんだけど、舞台上では完全にセルゲイの方が上でした。

それにしても、1990年に初来日公演を果たした時、Forestは大学生活真っ只中。

「ロシアバレエ関係の仕事に就きたい」とロシア語学科に入ったものの、現実は厳しく、学校から足が遠のくばかりの日々を送っていた。

もしこの頃に当初の夢のために真面目に勉強していたら、きっともっと早くエイフマンバレエにも出会っていたに違いない。

「後悔先に立たず」という言葉をまたしても噛み締めました。

一緒にバレエ観に行った友人Sにも「入り口までは辿り着いたのにね〜。Forestは気

が多いからねえ〜」と言われました。まさにその通り!

肝心のバレエですが、本当に素晴らしかった。


Boris Eifman's Anna Karenina - Official Trailer 2

今まで観てきた古典は何だったんだろう?と思うくらいの衝撃。

エイフマン振り付けの「チャイコフスキー」は観たことがあったので、何となくForestの好みだとは感じていたのですが、やはりその勘は正しかったか。

バレエ➕演劇➕器械体操を観ているような感覚でした。

どんな言葉も陳腐になってしまうのですが、とりあえずエイフマンは天才だなと。

今後、またいつ来日するかも分からないエイフマンバレエ。齢70を超えた彼が、あとどれほどの新作を振り付けられるのか?も気になるところです。

しかし、Forestには新たな目標ができました。それは、本拠地のサンクトに行ってエイフマンバレエを観ること。奇しくも専用劇場「dance palace」の建設が進んでいるとのことで、この劇場が完成した頃にサンクトにいる自分を想像してみると、ちょっと気分が浮き立ちます。

最後に超余談ですが、公演前に上野のSoup Stockでエイフマンに似ている男性を見かけた友人S。「人違いかも」と声をかけそびれたらしいのですが、その後カーテンコールで舞台に出てきた彼を見て「やっぱエイフマンだった」と。

「(ロシア人だけに)まさかボルシチ頼んでたとか!?」と聞くと「もちろん、ボルシチ注文していたよ。」だって。マジか?!日本人が異国で急に味噌汁飲みたくなった的な?

Sよ!その時点でエイフマンだと気づいたら一緒に写真でも撮れたのに!と激しくなじるForestなのでした。

2019年上半期のマイベスト!「アマンダと僕」⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

実は同じ劇場で全く別の映画を観ようと出かけたところ、7月20日〜公開だったことが判明。仕方なく、あまり関心のなかった本作を選んだところ、まさか今年上半期のベスト作品になるとは!人生ってつくづく、偶然の積み重ねだなあ〜と思った次第です。

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24歳のダヴィッドは、公園の庭木を剪定したり、旅行者にアパートの部屋を貸し出す仕事などをしながら、日々気ままに生きています。イギリス人の母親が幼い頃に父と離婚して以来、姉と共に父子家庭で育てられました。だから、高校で英語教師している姉とは結構仲良し。シングルマザーである姉の家にも頻繁に出入りし、7歳の姪アマンダを時々、学校に迎えに行ったり・・・と良好な関係を築いています。

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そんな、何の変哲もないけれど、穏やかな日々が永遠に続くと思っていたある日、突然の無差別テロで姉を失います。残された姪のアマンダと共に途方に暮れるダヴィッド。壮絶な体験と悲しみに二人はどうやって向かい合っていくのでしょうか?

 

事件が起きるまでの日々が、パリの風景と共に「これでもか!」というくらい丁寧に、そして繊細に描かれていきます。

印象的なシーンやセリフがいくつも出てきます。

出色なのは、英語教師である母が持っていた「Elvis has left the building」という本について尋ねるアマンダに、優しく、そしてとても詳しく説明をする母娘のシーン。何気なすぎて見過ごしていましたが、この本のタイトルと母娘のやり取りが、ラストシーンの伏線になっています。

そして、車の免許がなく、くたびれた自転車に乗っている姉を「早く免許を取れよ!」とからかいながら、ダヴィッドが、姉と並んでパリの街を自転車で疾走するシーン。

「ちょっと待ってよ!」と言いながら、二人は抜きつ抜かれつで、自転車を走らせるのですが、このシーンも後半でうまく活きてきます。

 

アマンダにとって歳の離れた兄のような存在だったダヴィッドですが、彼女の後見人(要は養女として育てるかどうか?)になるかという選択を迫られた時に怖気付きます。そりゃそうです。それまで、気ままな生活を謳歌していた24歳。7歳の女の子の人生を預かるには若すぎるのです。

「アマンダと僕」の画像検索結果

 

夏の日差しが降り注ぐパリの風景は変わらないのに、前半で描かれる3人の生活と、後半、大切な人がいなくなった後の空虚な世界がとのコントラストが見事です。

ダヴィッドの苦悩、子供であるアマンダのやりどころのない気持ち、そして彼らを取り巻く人々。それは共にテロの犠牲となり、トラウマを抱えると共に右手の感覚を失ってしまったダヴィッドのガーフルレンドだったり、父との離婚以来、会うことを拒んできたロンドン在住の実母だったり、父の妹である叔母だったり・・・。誰もがそれぞれの事情を抱えながら、ダヴィッドとアマンダの哀しみに寄り添おうとしてくれるのです。

 

アマンダからのどんな問いかけにも真剣に答え、決して逃げようとしないダヴィッドも見上げたものですが、やはりこの映画の主役はアマンダなんでしょう。何と言っても原題が「アマンダ」ですから!

まだ幼い彼女の悲しみや苛立ち、そしてダヴィッドも驚くほどの強さが、交互に現れる。とてつもないリアリティ。そして、現実を受けて止め、生きていこうとする姿に涙を抑えることができません。思わず彼女を抱きしめたくなるような瞬間が何度もありました。

「アマンダと僕」の画像検索結果

「アマンダと僕」の画像検索結果

クライマックスはラストのウィンブルドン

昔、テニスをかなり熱心にやっていたと想像される(ここは細かくは描かれません)ダヴィッドのため、そして実母に孫であるアマンダを見せるために、姉が取ってくれたチケット。3人で行くことは叶わなかったけれど、アマンダは初めて祖母アリソンと出会います。「ママのママだよ」とクールに母を紹介するダヴィッド。「おばあちゃんだよ」なんて言い方はしません。そして「アリソンっていい人ね」という感想を漏らすアマンダ。「アリソンは叔父さんのママでもあるんでしょ?」なんて大人なやり取りなんでしょう!これだから、フランス人って人々は本当に侮れませんわ。

試合中、劣勢な選手の姿を見て、突然に泣き出すアマンダ。そして「Elvis has left the building.」というあのセリフを口にするのです。この捻りが効いたラスト。映画を見た人にしか分からないと思うのですが、このシーンとセリフ、伏線、そしてアマンダの表情は、ここ数年観た映画の中でも、ダントツにナンバーワンの素晴らしさです。

 

実は先日、たまたまウィンブルドン男子決勝をテレビで見ていたForest。ジョコビッチフェデラーといういつもの顔ぶれだったのですが、2セット目で明らかにジョコヴィッチが劣勢に見えたForestは「また、フェデラーが優勝か」と飽き飽きした気持ちでチャンネルを変えてしまったのです。翌日、「ジョコビッチウィンブルドン史上、最も長い試合を征して優勝」という記事をネットで見た時の驚きときたら!

「やはり、何が起こるかわからないスポーツ」がテニスなのだという思いを強くしたのと、この映画のキーになっている「Elvis has left the building.」がいつも起こり得るわけではないのだ!諦めてはいけない!という人生訓を得ました。

涙から一転、徐々に広がっていくアマンダの笑顔を決して忘れることはないでしょう。

辛いけど、アマンダに強さをもらいたい時、何度でも観たくなってしまう作品です。

 

早熟すぎる20歳、ラディゲくん

みなさま、3連休はいかがお過ごしでしたか?

珍しく都内を彷徨くだけで終わったForestには、久しぶりに読書に費やす時間があり、買ったまま手付かずだった「ドルジェル伯の舞踏会」を読了。

Forestも書店で目にするまではタイトルすら知らなかった本作。

ドルジェル伯の舞踏会 (光文社古典新訳文庫)

ドルジェル伯の舞踏会 (光文社古典新訳文庫)

 

ちょっと説明しておきますと・・・

 

帯に書かれたキャッチコピーは

「夭折の天才が遺した、不滅の恋愛小説」。

はい、恋愛ドラマと同じく、恋愛小説も大好きなForestは、この帯に惹かれたんですね。ちなみに、結構古典的な恋愛小説が好物で、武者小路実篤の「友情」とか夏目漱石の「こころ」とか、三角関係&友人が心を寄せていた女性を奪っちゃう系の話には、古今東西問わず、目がないですね。

おそらく、「ドルジェル伯の舞踏会」にもそれに似た匂いを感じ取ったのでしょう。

「ベルばら」の大ファンであることも「〇〇伯爵」「舞踏会」という単語に反応した理由の一つ。尊敬する人物(架空だけど)のオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェも、名門ジャルジェ伯爵家の出身だし、アントワネットとフェルゼンが出会ったのも、仮面舞踏会だった・・・。あ〜、久しぶりに「ベルばら」読みたくなっちゃったなあ。

 

さて本筋に戻りましょう(汗)。

肝心のあらすじです。

「青年貴族のフランソワ(オスカルのミドルネーム!)は、社交界の花形ドルジェル伯爵夫妻に気に入られ、彼らと頻繁に過ごすようになる。気さくだが、軽薄な(わかる〜。こういう貴族、いるよね〜。っていうか、ほとんどの貴族は軽薄なイメージ!)伯爵と、そんな夫を敬愛する貞淑な妻マオ。フランソワはマオへの恋慕を抑えきれず・・・。それぞれの体面の下で激しく揺れ動く心の動きを繊細に描きとった、至高の恋愛小説」

でございます。

舞台は1910〜20年代のパリ。「狂乱の時代」と言われた時で、いわゆる貴族の血を引いた高等遊民たちは、代々の財産で豊かな生活を享受できるがゆえ、毎日を同じ貴族の人々との団欒(ともかく、昼食と夕食、その後の飲み会ばっかりですよ!そして使用人は山ほど。)に費やしていました。当然、そんな生活は退屈ですから、サーカス見に行った後に3時まで呑んだくれたり、不倫したり・・・と暇つぶしにも余念がありません。

で、主人公である20歳の高等遊民、フランソワもそんな一人。

仕事もなく、用事といえば、ドルジェル伯爵夫妻の家を訪ねてダラダラとお茶したり、実家で37歳(!)の若く美しい未亡人である、実母に見惚れたり・・・くらいの、超羨ましい生活を送っています。

そして、いつしかマオに心惹かれるようになり、「自分はマオのこと好きなの?でも、彼女の夫であるドルジェル伯爵は裏切れないし〜」とか「マオは自分のことどう思ってるのかな〜?」とか、そんなことばっかりを日がな一日考えています。

物語はオープンエンド?で唐突に終わるので、読者が二人の恋の行く末には色々と想いを巡らすことができるのですが、いやいや、Forest、めちゃくちゃのめり込みまして、2時間強で読み終わりました。

光文社の「古典新訳シリーズ」(旧訳は堀口大学氏)の、渋谷豊氏による生き生きとした翻訳によるところが大きかったと思いますが。

何よりも関心を持ったのは、作者のラディゲくんが本作を20歳で書いて、直後に腸チフスで死んでるってことです。

アラン・ドロン主演で映画にもなった「肉体の悪魔」の方が、作品としては知名度が高いですが、彼自身の生涯が、小説に劣らず衝撃的でした。

小林秀雄が本作とラディゲについて、以下のように語った言葉に激しく同意するので、引用。

「これほど的確な颯爽とした造形部を持った長編小説(ロマン)を近頃嘗て見ない。それにしても子供の癖に何という取り澄まし方だろう。やっぱり天才というのはあるものだ、世に色男があるように。」(「Xはの手紙・私小説編」新潮文庫)。

まあ、普通の20歳の青年が何の後ろ盾もなく、小説家デビューできるわけもなく、ラディゲ君は14歳頃に、ジャン・コクトーと知り合い(これは双方にとって衝撃的な出会いだったらしい)、彼と行動を共にするようになるのです。そして、芸術家や文筆家の知己を得て、「肉体の悪魔」という不倫小説で彗星の如く、文壇に現れたというわけ。

当然、コクトーとの同性愛関係は公然の秘密だったみたいで(そうでもなければ、14歳の少年を連れ回し、親元から6ヶ月も離して旅行連れて行ったり、深夜まで酒飲ませたり、一緒に住んだり、小説売り込んだりしないよね・・・)、わずか20年の人生で男も女も愛し、愛されまくったラディゲの顔が気になる!ってわけで、調べてたら写真が残っていた!

横顔ですけど、やっぱりかなりのイケメンだわ。そして、これがまだ20に満たない青年だって言うんだから、本当に「世に早熟な天才はいるんだな」という一言です。

「ラディゲ」の画像検索結果

そして、こちらがコクトー

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先日読了した「ソヴィエト旅行記」を書いたアンドレ・ジッドもそうですけど、当時のフランス芸術界では「同性愛」が普通だったんでしょうな。

ドルジェル伯の舞踏会」は当然(?)のことながら、三島由紀夫も愛読していたそうで、やっぱり趣向が同じもの同士、共感し合うものがあるんでしょうか。

それにしても、14歳で23歳の女性と結婚し、子供をもうけるも離婚。その後も、国籍(イギリス、ポーランドスウェーデン出身と万国博覧会状態)問わず、主に年上の女性たちと恋愛遍歴や同棲を重ねて20歳でこの世を去る・・・って、あまりに生き急いでいる感があります。

実はForestの祖父はフランス語翻訳・通訳を生業にしていた人で(と言っても、こちらも40歳で夭折)、15〜24歳までをフランスを始めとするヨーロッパで過ごしています。

日本の中学を中退しての留学。大学もフランスで終えました。

Forestが生まれるはるか昔、Forest父が5歳の時に亡くなったので、もはや彼のことを語れる人もいないのですが、ちょっと調べたら完璧にジャン・コクトーと同世代ですね。

うわ〜、もしかしてパリで会ってたりして!などと想像すると、生きている時に祖父に会いたかったと強く思うのでした。きっと色々と教えてくれたに違いない。

話はまたもや逸れましたけど、三角関係の恋愛小説として、現代人が読んでも十分に楽しめる作品です。20歳の青年が書いたと思えない、緻密な心理描写と人間観察力が凄すぎます。21世紀に生きるForestが読んでも「あ〜、こういう人、今もいるなあ。あの人みたいな人だなあ〜」と簡単に共感できてしまうのですから、人間って100年経っても、さしてその営みは変わってないんでしょうね。

これを機に「肉体の悪魔」も読んでみようと思う、海の日でした。

しかし、韓国ドラマにハマったり、クラシックバレエが趣味だったり、フランス文学読んだり、ロシア好きだったり、Forestって何事も「広く浅く」人間なんだろうな〜と、改めて自己分析した次第です。

バレエ鑑賞記「ドン・キホーテ」by 英国ロイヤルバレエ

バレエ好き、且つ、ものすごいリサーチ&コミュニケーション能力を持つ稀有な友人Sのおかげで、常に来日公演情報がアップデイトされ、チケットの購入までお任せしてしまっているForest。これ、冷静に考えると、彼女が情報収集、チケッティング、Forestへの連絡などに費やした時間だけでも、相当な金額に値するんじゃなかろうか?(急に焦ってきました。チケット代行業者にお願いしていたら、きっと今までの手数料は10万円を下らない気がします。)

 

バレエ鑑賞はForestのたくさんある趣味の一つ。

中でも最もお金をかけているものと言っても過言ではない。(だって、普通に海外カンパニーの来日公演は一番安い席でも1万円超えますから!)

元々は小学生の時に読んだバレエ漫画「SWAN白鳥」にハマり、読み返すこと100回以上。(いや、もう何千回読んだか知れない)。そのおかげで、クラシックからモダン、ボリショイだけじゃなく、英国ロイヤル、ハンブルグキューバモンテカルロ

ニューヨークシティバレエなどのカンパニーの振付家についても、一通り知識を得ました。

漫画と侮るなかれ!「SWAN」読んで「将来はボリショイの招聘に関わる仕事をする!」とロシア語を大学で専攻しちゃったわけですから、Forestの人生を大きく変えた作品なわけですよ。

超余談ですが、10年くらい前、転職したいな〜と思っていた時に「ダンスマンガジン」読んでたら、巻末に「SWAN」作者の有吉京子先生アシスタント募集の告知が!

しかも、彼女のオフィスは逗子マリーナと、鎌倉は材木座の実家から至便。思わず応募しちゃおうかな〜と真剣に考えてた時期もあります。

 

すぐに横道に逸れるのが、Forestのいけないところでございます。本題は「ドン・キホーテ」でした(汗)。

今まで何度となく友人Sとバレエ鑑賞してきたわけですが、面倒くさがりのForestは全然レビューをUPしていなかった。

それでは、いつ何を見たか?も分からなくなっちゃうわけで、もったいないわ〜と俄か記録をつけることにしました。

 

ロイヤルのプリンシパルになってから、初の日本凱旋公演で主演のキトリを踊るはずだった高田茜ちゃんは、残念ながら怪我で降板。(このニュースをいち早く教えてくれたのも友人S)。代打はヤスミン・ナグディ。バジルが、6月にプリンシパルに昇格したばかりのマルセリーノ・サンべ。Forestの大好きなポルトガル出身ってだけで好感度大です。「ドンキ」での活躍が評価されての昇格だったそうで、その昔、21歳でロイヤル初のアジア人男性プリンシパルに指名された熊川哲也を思い出しました。

 

舞台ではこんな凛々しい姿を見せるマルセリーノ君ですが、素顔は可愛らしい青年。

今回の「ドンキ」は2002~3年にかけてロンドンに留学し、ロイヤルバレエを見まくっていた(まさに毎週コベントガーデンに出かけていました)Forestがハマりにハマったキューバ出身のカルロス・アコスタ振り付け版。Forestと同じ歳のカルロス君もとうに引退。すでに振付家としてのキャリアを歩んでいるのね。というわけで、非常にキューバ的な「ドンキ」だったと言えるでしょう。

 

※これが若かりし日のカルロス・アコスタ。

しなやかなバネのように強靭な身体を生かした、人間離れした踊りに目が釘付けでした。キューバの貧しい家庭で育って、不良仲間から離れるために遠くのバレエ学校に通い始めたというカルロス。ロイヤルに入ってからもしばらくは素行の悪さが治らなかったらしく、そういう「ロイヤル擦れ」していない所に魅力を感じていました。彼自身が違和感を感じながら、そこにいる・・・という感覚が伝わってくるような気がして。

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肝心の「ドンキ」ですが、マルセリーノくん、頑張っていたものの、Forestのベストドンキといえば、やっぱりクマテツなのよ。ごめんね。

彼の安定感あふれる回転と、滞空時間の長い跳躍と言ったら!かなうものはありませんわ。過去も未来も、やっぱりクマテツの「ドンキ」は最高。


Tetsuya Kumakawa Don Quixote

しかし、本公演での収穫も、もちろんありました。

それは、エスパーダを演じた日本の誇るプリンシパル、平野亮一氏。

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186センチという長身を生かしたダイナミックな踊り。

舞台映えのする手足の長さを見て、「あ〜、クマテツはもう昭和の人なんだなあ」と、しみじみしてしまった(笑)。

 

しかも、この平野氏の素顔が、超Forestの好みです。

長身でムキムキしてて、そしてちょっと髭面。

大好きな韓国人アイドル(っていう歳でもないが)2PMのテギョンと似てるのがまたまたツボでした。

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こっちがテギョンね。最近、除隊したばかり。

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なんだか最後はロイヤルから韓国人アイドルの話になっちゃったけど、これからも平野亮一氏を追いかけます!

(と無理やりまとめてみた)