「ミリキタニの猫」

2007年も残すところ後3ヶ月。そんな押し迫ったタイミングで今年一番、いや人生10本の指に入るくらいのドキュメンタリーに遭遇しました。

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陳腐な表現しか出来ませんが「事実は小説よりも奇なり」。この作品の主人公、ジミー・ツトム・ミリキタニ氏(撮影当時80歳)の歩んできた人生と言ったら!そりゃあもう、そんじょそこらの小説よりも遥かにエキサイティングなのです。 NYの路上で絵を描きつつホームレス生活を送るミリキタニ氏。その彼が本作の監督であるリンダと出会い、わずか1年の内に遂げる変貌ぶりには目を見張ります。 敵性外国人として第二次大戦中、収容所へ入れられていたミリキタニ氏。市民権を剥奪したアメリカへの憎悪と反骨心だけで、生き抜いて来たようなものです。 そんな彼が収容所への慰霊ツアーに参加した時のエピソードは圧巻です。それは収容所で可愛がっていた男の子のこと。「おにいちゃん、日本の猫の絵を描いてよ」と若き日のミキリタニ氏にせがんでいたという男の子は、この収容所で亡くなったそうです。 しかし、収容所再訪の前夜、彼は夢を見たそうです。その夢の中で、思い出の少年は「お兄ちゃん、さようなら」という言葉を残して去っていったのだと。 今までミキリタニ氏にまとわりついてた恨み、つらみ。それらがスッと晴れて、アメリカをそして戦争を「赦す」境地に至った彼の気持ちを亡き少年は象徴していたんでしょうね。 「今は何もかも過ぎていくだけ。思い出はいつも優しかった。」 ミキリタニ氏でないと、言えないひと言です。人生の最後の最後に、これだけ多くの人間に感動を与えるという大仕事を成し得たミリキタニ氏に乾杯!