「家に帰ろう」⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

機内で90分という短尺だったため、何気なく選んだアルゼンチン映画

以前に予告編を観て気にはなっていましたが、ここまで素晴らしい映画だったとは!

感動のラストに涙が止まりませんでした。(隣の人に「大丈夫か?」って思われていたかも・・・^^:)

uchi-kaero.ayapro.ne.jp

ブエノスアイレスに住む88歳の仕立て屋エブラヒムは、ポーランドから逃げてきたホロコーストの生き残り。

子供たちによって家が売られ、翌日には老人ホームに入れられる。。。そんな時に、70年前の友との約束を思い出します。

それは「自分の仕立てたスーツを持って、必ず会いに行く」というものでした。

ソ連侵攻後、ナチスが解体され、命からがら強制収容所から脱出した自分を介抱し、アルゼンチンまで逃してくれた、まさに「命の恩人」とも言える友達。

彼からもらった布でスーツを仕立てていたものの、アルゼンチンでの生活に追われ、あっという間に流れた70年の月日。

もちろん、その間二人は音信不通です。友が生きているかも、まだ故郷の町ウィッチに住んでいるかも不明。

しかし、エブラヒムは「このまま老人ホーム送りは嫌だ!人生の最後に約束を果たすんだ!」と家出同然で旅に出ます。

 

彼の右足は壊死寸前で医者からは切断を勧められています。

歩くのもままならないエブラヒムが、ブエノスアイレスから遥か遠いポーランドまで、無事に行き着くことができるのか?

観ている方がハラハラする、スリリングな展開が続きます。

ここも前半の見せ場です。

 

まずはアルゼンチンからスペインのマドリッドへ。ここが彼にとってヨーロッパの玄関口。しかし、旅の初めから宿で全ての持ち金を盗まれるというハプニングに襲われます。さて、ヱイブラヒム、どうする????

と、彼の旅はすんなりとは進みません。が、その度に彼を助けてくれる人が現れます。

宿の女主人、空港で入国を助けた不法滞在の男性、そして絶縁中だったマドリッド在住の末娘。。。

それもこれも、ヱイブラヒムの人間的な魅力が成せる業なんでしょうね。

なにせ88歳の足が不自由な老人が、人生最大のミッションをこなそうとしているのですから、どうしたって何とかしてあげたい気持ちに駆られます関連画像

 

 

紆余曲折の末、マドリッドからパリへ向かう列車に乗り込んだヱイブラヒム。

しかし、パリからポーランド行きに乗り換えようとした時に更なる問題が発覚。

まず、スペイン語圏であるマドリッドから出たことで、フランス語の壁にぶち当たります。誰もスペイン語を解してくれないもどかしさ関連画像

 

加えてエブラヒムの要求「ドイツを通過せずにポーランドに行きたい」は、物理的に不可能。駅の案内の人々も呆れ果て、笑い出す始末です。

そんな時に手を差し伸べてくれたのは、スペイン語、さらにはイデッシュ語(ユダヤ人の言語)を話す人類学者だという中年女性でした。

「家へ帰ろう」の画像検索結果

救世主のような彼女に笑顔を見せるヱイブラヒムでしたが、彼女がドイツ人であると知った途端に態度を急変させます。そして自分がポーランドで受けた経験をポツリポツリと語り出す。「聞いたんじゃない。この目で見たんだ」と繰り返す彼に、ドイツ人女性もかける言葉を失います。

 

「ドイツに足を踏み入れたくない」というヱイブラヒムの願いを、このドイツ人女性が一休さんばりのアイディアで叶える場面は驚きと感動です。

「ドイツ人はホロコーストを恥だと思っている。あの時代を知らない若者も歴史から学ぼうと努力している」と語る彼女に言葉に少しは心を動かされたように見えるヱイブラヒム。「ドイツ人には触れられたくもない!」と頑なだった彼が、別れ際に彼女からの抱擁を体を硬直させて受け入れてる姿が印象的だったなあ。

 

さてさて、いよいよと列車はファイナル目的地、ポーランドへ走り出します。

果たして友は生きているのか?70年越しの再会は果たせるのか?

 

なんかねえ。やっぱり映画って素晴らしいですよね。

わずか90分でここまで人間の機微と背負った歴史を語れるのだから。

ドイツという国にも興味が湧きました。

ヒトラー、そしてナチスという化け物、ホロコーストという人類最大の虐殺を生んだ自国の歴史を学びつつ、今何を思って生きてるのかな?彼らの学校教育とか、非常に興味が湧きました。というのは、この文化人類学者のドイツ人女性が、本当に素晴らしいキャラクターとして登場するんですよ。全ての人類の良心のような女性。

旅の途中で彼女に会えたのがヱイブラヒムの財産だと思います。

彼女に会わなかったら、きっと彼はドイツを憎んだまま一生を終えていたでしょうから。

 

ラストは語らずにおきますが、原題「最後のスーツ」よりも邦題の「家に帰ろう」がピッタリとはまります。「ああ、こういうことだったのね」という。ヱイブラヒムにとっての家はここだった。

人生の折々に観たい映画です。

ヱイブラヒムの勇気と行動力に励まされること間違いなし。

今でもラストシーンを思い出すと涙が・・・。