「百瀬、こっちを向いて。」

恵比寿アトレの有隣堂にて、書棚一面を使って大プッシュされていた文庫本。

シンプルな真っ白の装丁と、何とも意味深なタイトルに魅かれて即買い。

岩井俊二監督も大絶賛の恋愛小説集…ということで、久々にフィクションを詠みました。

最近、ともするとビジネス書や人生論を語るような本ばかりに気を取られていたので、久々に触れる高校時代の恋愛…という題材が非常に新鮮でしたね。

著者の中田永一氏は、覆面作家

その素性は明らかにされていませんが、ソーダ水の如く爽やかな恋愛小説を書く、今もっとも期待されているストーリーテラーだそうで…。

奇しくも本書に収められている「キャベツ畑に彼の声」は、高校の先生が大人気の覆面作家だと気づいてしまった女子高生の揺れる想いを切り取ったもの。

穿った見方かも知れませんが、この短編と同じく、中田永一氏は実は男性の覆面と被った女性を察しております…。これも中田氏の狙いかも知れませんが。

登場する主人公たちは、揃いも揃って平凡を絵に描いたような人物たち。

自分たちの冴えなさ加減も良く分かっていて、ひたすら目立たず、ひっそりと学生生活を送ることだけを願っている。だからと言って決して卑屈なわけではなく、自分と同じような境遇の友人たちと、それなりに楽しく世界を築いているんです。

そんな地味で、取り立てて特徴のない彼らが、やがて初めての恋愛感情に気づいて、ちょっとだけ成長したり、人の痛みが分るようになる…という非常に平易な、誰にでも「分かる、分かる!」と言わしめるようなストーリーが展開されます。

まるで漫画を読んでいるような感覚で、サクサク進みます。2,3時間で読了~。

目の前に情景がすぐに浮かんでくるような、そんな分りやすさも漫画的な要素ですね。

書店でも世間でも、絶賛されている恋愛小説ですが、正直Forestには物足りなかったかな~。

いや、良く出来ているのは分るんですよ。

でもね、綺麗にまとまり過ぎているというか、一歩突っ込んだ所がないというか。

さらりと表面だけ撫でつけたような印象を受けてしまいました。

まあ、本を読まない現代の若者達には、これくらいライトな小説が受けるんでしょうかね。

とは言え、平凡な日常をこれだけじっくりと観察し、生き生きと描き出せるってことは、もしや中田氏は専業主婦?あるいは現役の高校生?と思わず詮索せずにはいられなくなりました。