「ラスト・コーション 色/戒」

彼の作品にハズレなし!敬愛するアン・リー監督の最新作。中華圏では既に記録的な興行成績と動員数が話題となっており、もちろん台湾の金馬賞も独占状態。日本での公開を今や遅しと待ち焦がれ、原作を読んで準備万端!映画に臨みました。

ラストコーション

原作は数十ページにしか満たない短編。これを2時間30分超えの映画にどう仕立てているのか?シェパードの顔が画面いっぱいに映し出されたファーストシーン、これを観て「あ、この映画、いけるな」という予感がしました。

話題になったセックスシーンですが、そのアクロバティックさに圧倒されましたね。(前から3番目の席だったせいもありますが)本来は睦みごとであるセックスは、2人の果し合い=対決の形相を見せます。「これでもか!」と相手を攻め立ててつつ、お互いの反応を伺う。肉体は本当に深い所で繋がっているのに、「決して心は許さない」という決意が2人の瞳に浮かび上がります。

平凡な女子大生だったタン・ウェイが、ワン・リーホン演じる演劇仲間に誘われて、トニー・レオン暗殺という命を賭けた計画に身を投じていく。自分達は中国を救う崇高な使命を帯びている・・・そんな熱に浮かされたような気持ちが、彼らを突き動かしていたのですね。

原題の「色/戒」は、まさに「色(色欲)に戒めを」という意味でしょう。色に溺れた2人の末路は余りにも不幸なものだった。しかし、暗殺者とそのターゲットという倒錯した関係で出会ったからこそ、歪んではいるものの、肉体を通じて2人の関係は「愛」へと昇華されたと思います。

極限の状態に於ける愛を見事に描き切った第一級のラブストーリーです。

驚いたのは上映後、場内に明かりが点いた時…。平日夜のシャンテシネでこんな沢山のサラリーマン達を見たのは初めてでした。皆さん、「R-18」に惹かれてやって来たんですね。もし彼らがセックスシーンだけど期待して観に来ていたとしても、きっと2人の命を賭けた果し合いに圧倒されて帰途に就いたと思います(笑)。