「マイレージ、マイライフ」★★★★☆

主人公のライアン・ビンガムは、年間322日を空の旅で過ごす出張の達人。その職業は「リストラ宣告代理人」と不況の現代を象徴するようなユニークな設定。家族を持たず、最小限の荷物を詰め込んだキャリーケースを華麗に引き回しながら、アメリカ各地を移動し続けます。

マイレージ

「Up in the air」(宙に浮かんで)という原題が表すように、ライアンはそれほどの孤独感も悲壮感もなく、ふわふわと空の上を飛んでいます。

インターネット電話でリストラを告げることで「出張のリストラ」を提案する新入社員ナタリー、出張先で出会う企業戦士の女性アレックスなどの出会いに彩られ、ライアンの生活はこちらが思うほど殺伐とはしていません。「案外楽しそうじゃない?」という気持さえ抱かせます。

今までのハリウッド映画だったら、人とのつながりに目覚めたライアンが、アレックスと地に足の付いた生活を始める…とか、本当に自分のやりたいことを見つけて出張生活に見切りをつける…とか、予定調和の結末を想像しちゃうんですが、違うんだよな~、これが。

監督のジェイソン・ライトマン。1977年生まれとは思えない老練さで、物語を進めていきます。

彼が「サンキュー・スモーキング」「JUNO」の監督とは知らずに本作を観たんですが、この人、かなり私の好みの作風なんですね。気になって調べたところ、なんと父親が「ゴーストバスターズ」シリーズで一世を風靡したアイヴァン・ライトマン監督。小さい時から撮影現場に出入りしていたそうで、まさに映画界のサラブレッド。父が映画監督、母親が女優というところから、「ガラスの仮面」の姫川亜弓を彷彿をさせます(?)

ま、ともかくスターリンユダヤ人粛清時代にチェコからカナダに亡命してきた父を持ち、カナダでもモントリオールというフランス語圏で育ったというバックグラウンドが、ジェイソン・ライトマンの映画製作に大きな影響を及ぼしたと思います。ハリウッドからも、そしてカナダからも、そして自身のルーツであるチェコからも距離を置くということ。それが彼独特の「安易なハッピーエンドに帰結しない」冷めた視線を作り出したのでしょうね。

ここで「キネマ旬報」で映画評論家の芝山幹郎氏の映画評が、まさにこの映画の本質を言い当てていたので、引用させて頂きます。

「監督のジェイソン・ライトマンは登場人物を戯画化しない。さらに彼は、哀愁漂う人情物語や社会派のロマンティック・コメディといった紋切り型の着地点を次々とかわしていく。果敢な飛行だ」

わずか32歳でこの才能。空恐ろしいですが、次回作が楽しみな監督がまた増えました。