90分一本勝負!「ボイリング・ポイント~沸騰」

シネフィルの上司が薦めてくれた本作。

90分ワンショットが話題の英国映画。まさに映画館で観るのにピッタリの一本です。

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同じく90分の長回し映画として有名なのは、ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督による「エルミタージュ幻想」(2002)。ちょうど英国留学中だった私、Forestはこの映画をロンドンのアートハウスで一人鑑賞し、あまりの素晴らしさに涙を流したのでした。幻想と現実の区別がつかないまま、監督自身が19世紀のエルミタージュ美術館の中をさまよう。。。ロシア王朝240年の歴史を目の当たりにする、その90分はまさに幻想そのものでした。「いつか必ずエルミタージュに行く!」と決意してから20年。まさかロシアがこんな状況になろうとは、当時想像すらできなかったな~。

 

・・・といつものごとく、話は横にそれましたが、再びこのワンショットという手法を使った映画を観ることになりました。しかし、そのテーマは全く異なったもの。

 

クリスマス前の金曜日=レストランが最も込み合う日。ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフのアンディに次から次へと降りかかる災難と、そこで働く様々な立場のスタッフたちの人間模様が、臨場感たっぷり&スリリングに描かれます。

 

アンディ自身も妻子と別居し、仕事しながらも絶えずステンレスボトルに入れ替えた酒を飲まずにはいられないアル中状態。材料の発注は忘れるわ、衛生管理者に書類の空欄(記入漏れ)を指摘されるわ、アーモンドアレルギーの客に胡桃オイルの入ったドレッシングかけサラダを出してしまうわ、正直、かなりヘタレな感じのダメダメシェフ。嫌だな~、こんなシェフの下で働くの(笑)。

 

他のスタッフも問題ありありで、このレストランの厨房や洗い場など、バックヤードでは耐えず誰かが怒鳴ったり、叫んだり・・・まさに阿鼻叫喚。こんなメタメタなレストランが果たして高級なのだろうか(汗)。さすが英国クオリティ?行きたくないなあ~、この店。

 

ともかく、これが一夜の出来事とは思えないくらいの、濃~い人間関係とトラブルが、次から次へと起きていく。しかし、私Forestがちょっと羨ましかったのは、誰もが思ったことをハッキリと口にする潔さというか、それが許されるカルチャーですね。

特に副料理長(スー・シェフ)のカーリーという女性が、店のオーナー(支配人)である女性にめっちゃくちゃ、悪口言うところは、いや~スッキリ!

「こんな人数の予約を受け付けるなんて、あんたの頭が悪いからよ!あんたがSNSに費やしている時間の半分でも、店せ料理の勉強に費やしてたら、こんなことにはならなかった(みたいなこと)」を、すごい勢いでまくしたてるんですが、あれだけ本心を吐き出せたら、もう気分は爽快、ストレスフリーです。

 

いや~、私Forestも「お前の頭が悪いからこうなるんだよ!ば~か、ば~か」と言いたい人がどれだけいることか。ちょっとした代理満足を得られました。

 

これはレストランという場を借りた、社会と人間模様の縮図を描いた映画なのですよね。どの会社、団体でも、複数の人が集まると何かしらの衝突が起きる。ましてや人種の坩堝、ロンドンでは、人種や宗教、出身までが絡んでくるので、よりその問題は複雑化するのです。

 

アンディにとっては悪夢のような一夜だったわけですが、正直これをワンショットで撮らなくても、それなりの映画になったかと思います。ともあれ、現場を縦横無尽に動き回るカメラ、俳優たちの即興芝居による圧倒的な熱気と臨場感は、やはりワンショットの緊張感がもたらしたものか?

 

90分、自分もこのレストランの客またはスタッフとして、そのにいるような気持にさせてくれる。映画館で観てよかった!そう思える作品です。それにしても、疲れたわ~。