「ちょっと思い出しただけ」★★★★☆

これ観たことすっかり忘れてた。まさに今さっき、「ちょっと思い出した」ので忘れない内に感想を。

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彼女がタクシー運転手っていう設定が良い


最近、各所で大活躍の伊藤沙莉池松壮亮主演のラブストーリー。伊藤沙莉を知ったのは、2019年NHKドラマ「これは経費で落ちません!」だったのだけど、すでに9歳からドラマ出演しているベテランだったとは。27歳という年齢に見合わない、ある種のこなれ感がある女優。あ、そういえば池松壮亮も子役出身だった。道理でこの2人が醸し出す落ち着きと安心感は、若手新人俳優のものではない。

とあるカップルの出会いから別れが、日常の何気ないシ―ンの数々によって丁寧に描かれていく。大好きなイギリス映画「One Day~23年のラブストーリー」(2011年、アン・ハサウェイ)を思い出させる演出で、とても好感が持てる。ただし、「One Day」が23年前から今に至るまでの2人を毎年同じ日を軸として描くのに対し、こちらは全く逆で「別れ→出会い」と時間を遡る、捻りの効いた構成。最初は「今2人はどの時点にいるのだろう?別れた?まだ付き合ってるところ?」と混乱するのだけれど、一度理解すると物語に没入するのはあっという間だ。

伊藤沙莉の役が「タクシー運転手」というのにも、きちんと理由がある。ジム・ジャームッシュのオムニバス映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991年)へのオマージュなのだ。この映画はヨーロッパやアメリカの様々な都市のタクシードライバーと乗客のある一夜の出来事を描いている。きっと監督はこの映画の大ファンなんだろうな・・・と、同じ趣向を持った人間として、素直に嬉しい。

伊藤と池松の掛け合いが秀逸。どうしたらこんなに自然なセリフが書けるのだろう?と思ったが、脚本も書いた松居大吾監督はわずか36歳と知って納得。私にはこの手の映画はもはや「観るもの」でしかないが、彼にとっては身近にある現実なのだろう。若い監督と俳優によるリアリティ溢れる等身大恋愛映画である。

一緒に笑って泣いて。。。幸せな時間が永遠に続くと思われたカップルにも、やがて別れはやってくる。しかし誰かを愛し、共に重ねた思い出が彼らを強くし、さらなる幸せへと導く土壌になるのだということをこの映画は教えてくれる。