「ちょっと思い出しただけ」★★★★☆

これ観たことすっかり忘れてた。まさに今さっき、「ちょっと思い出した」ので忘れない内に感想を。

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彼女がタクシー運転手っていう設定が良い


最近、各所で大活躍の伊藤沙莉池松壮亮主演のラブストーリー。伊藤沙莉を知ったのは、2019年NHKドラマ「これは経費で落ちません!」だったのだけど、すでに9歳からドラマ出演しているベテランだったとは。27歳という年齢に見合わない、ある種のこなれ感がある女優。あ、そういえば池松壮亮も子役出身だった。道理でこの2人が醸し出す落ち着きと安心感は、若手新人俳優のものではない。

とあるカップルの出会いから別れが、日常の何気ないシ―ンの数々によって丁寧に描かれていく。大好きなイギリス映画「One Day~23年のラブストーリー」(2011年、アン・ハサウェイ)を思い出させる演出で、とても好感が持てる。ただし、「One Day」が23年前から今に至るまでの2人を毎年同じ日を軸として描くのに対し、こちらは全く逆で「別れ→出会い」と時間を遡る、捻りの効いた構成。最初は「今2人はどの時点にいるのだろう?別れた?まだ付き合ってるところ?」と混乱するのだけれど、一度理解すると物語に没入するのはあっという間だ。

伊藤沙莉の役が「タクシー運転手」というのにも、きちんと理由がある。ジム・ジャームッシュのオムニバス映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991年)へのオマージュなのだ。この映画はヨーロッパやアメリカの様々な都市のタクシードライバーと乗客のある一夜の出来事を描いている。きっと監督はこの映画の大ファンなんだろうな・・・と、同じ趣向を持った人間として、素直に嬉しい。

伊藤と池松の掛け合いが秀逸。どうしたらこんなに自然なセリフが書けるのだろう?と思ったが、脚本も書いた松居大吾監督はわずか36歳と知って納得。私にはこの手の映画はもはや「観るもの」でしかないが、彼にとっては身近にある現実なのだろう。若い監督と俳優によるリアリティ溢れる等身大恋愛映画である。

一緒に笑って泣いて。。。幸せな時間が永遠に続くと思われたカップルにも、やがて別れはやってくる。しかし誰かを愛し、共に重ねた思い出が彼らを強くし、さらなる幸せへと導く土壌になるのだということをこの映画は教えてくれる。

 

バレエ「ロミオとジュリエット」考察

知人からご招待頂き、先日とは別キャストでK-balletの「ロミジュリ」を鑑賞。熊川哲也振付版。2日と開けずにオーチャードホールでバレエとは何たる贅沢。

ロミオとジュリエット」のストーリーを知っている人は多くとも、バレエを観たことがある人は数少ないのでは?特に日本人は。。。

プロコフィエフの楽曲によるこのドラマチックバレエは、振付家たちの創作意欲を刺激するのでしょう。1938年チェコスロバキアのブルノ劇場での初演に始まり、

 

1955年フレデリック・アシュトン版(デンマーク国立バレエ)

1958年ジョン・クランコ版(ミラノ・スカラ座

1962年ジョン・クランコ改訂版(シュツゥットガルト)

1965年ケネス・マクミラン版(英国ロイヤルバレエ、ルドルフ・ヌレエフ&マーゴット・フォンティーン初演)

1971年ジョン・ノイマイヤー版(フランクフルトバレエ)

1977年ルドルフ・ヌレエフ版(イングリッシュナショナルバレエ)

・・・・などなど、名だたる振付家がこぞって取り上げています。

私Forestは上述した版はおそらく全て鑑賞したことがありますが、中でも英国ロイヤルバレエの名振付家だったケネス・マクミラン版は、折に触れてYoutubeでも検索してしまうほど中毒性があります。例えるなら、「冬のソナタ」の名場面をたまに見たくなるみたいな(これはForestだけか・・・笑)。マクミランは「ロミジュリ」「マノン」などの、大衆受けするドラマティックな演目を好み、女性ダンサーの情感と官能美溢れる振付を得意としました。さらに彼のパ・ド・ドゥ(男女が一緒に踊るダンス)は、女性を高く持ち上げ、クルクルと回す、アクロバティックなリフトも特徴。人間業とは思えない動きが次々と繰り出されます。

韓国ドラマファンはきっと、マクミランバレエを好きになると思う。韓国ドラマにおける現実離れした設定と展開(好きになった相手が結ばれてはいけない定め・・・的な)は、まさにバレエの世界そのものだからです。

さらに「ロミジュリ」の舞台はひたすら美しい。美男美女が流麗な音楽に乗って、これでもか?!と言わんばかりに絡み合う姿は眼福そのもの。これも韓国ドラマとの類似点でしょう。

「ロミジュリ」最大の見せ場が「バルコニーのパ・ド・ドゥ」。「なぜあなたはロミオなの~?」と、バルコニーに出てきて一人夜空を見つめているジュリエットの元に、マントを羽織ったロミオがやってきます。それもちょっとミステリアスな音楽と共に。このマントが似合わないダンサーは、ロミオ役を演じられない!

K-balletの設立者であるクマテツこと熊川哲也によるバルコニーシーンはこちら。


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やはり素晴らしいです。もういくら彼がドヤ顔しても納得です。ここまでナルシスティックにロミオに成り切れる日本人男性がいるだろうか?だから私Forestは、クマテツの踊りが好きです。「彼だったら西洋のストーリーを完全に自分のものにしてくれる」という安心感があるから。彼が日本人であることを完全に忘れます。

ところで、1965年に英国ロイヤルでマクミラン版を初演したルドルフ・ヌレエフとマーゴット・フォンティーンの踊りもyoutubeで観ることができます。さすがに60年近く前とあって映像の粗さは否めませんが、時を経ても色褪せない二人の完璧なパートナーシップには心打たれます。


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引退間際だった42歳のプリマの前に突然現れた、24歳のソビエトのダンサー。海外公演先のパリで亡命したヌレエフとの出会いが、フォンティーンの運命を変えます。19歳の年齢差を超えた奇跡のパートナーシップで、彼らは世界的な大スターへと昇り詰め、フォンティーンは終わりかけていたバレエ人生を、再び花開かせるのです。

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19歳下の天才ダンサーと踊れるとは。。。それだけで若返ります。

ヌレエフ&フォンティーンのエピソードは大好きなので、また別途ページを割くことにしますが、「19歳差(しかも女性が上!)のコンビが世界を席巻!そして女性は第二の黄金期を迎える!」って、まさに韓国ドラマものの奇跡の大逆転ストーリーじゃないですか?!しかも、それが今から約60年前に繰り広げられていたというのですから、時代を超先取りです。今の世の女性たちにも、勇気を与えるエピソードじゃないでしょうか?「良いパートナーとの出会いさえあれば、人は再び輝ける!」ってね。

今でこそ、ロシア人ダンサーは海外のバレエ団に所属し、世界各地で踊ることが常識になってますが、冷戦時代のソ連では自由に国外に出ることができなかった。やんちゃな言動で当局に目をつけられていたヌレエフは、マリンスキー劇場のパリ公演の後、皆が次の公演先ロンドンへ向かおうとする中、一人だけ「ソ連行き」のチケットを渡されます。パリでもフランス人ダンサー達と夜の街に繰り出し、宿舎へ戻るのは深夜という、フレエフの奔放な行動は、監視していたソビエト政府には脅威に映ったのです。「国に戻ったら自由はない」と直感した彼は、西側(この言葉自体が死語・・・)への亡命(この言葉も死語に近い・・・)を決意。ソ連初の「亡命アーティスト」となったわけです。 しかし。。。昨今のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアのダンサーが続々と国外に流失している。せっかく死語になっていた「亡命」に近い動きがなされていることに、「歴史は繰り返すのか・・・」と暗澹たる思いがします。

かつて決死の覚悟で国を捨てたヌレエフ。彼が生きていたら、今のロシアを見て何を思うでしょうか?彼は「ダンサーはその一歩一歩に血の跡を残さなくてはいけない」と語りました。タタール人とバシキール人の血を引く、ウファ出身の貧しい少年は、ワガノワバレエ学校時代も、他の生徒たちのサンドバック状態。「田舎者」と虐められ続けました。そんな環境下で、彼は血の滲むような努力をして、鋼の精神力を培ったわけです。

それくらいストイックに鍛錬しているダンサー達が、今この世界にも数多くいます。踊る場を失うこと。それは彼らにとって死を意味することに等しいでしょう。彼らの心身が傷ついたり、命を落とすことがないように、ロシアバレエの歴史を作ってきた先人たちに思いを馳せつつ、心より祈ります。

K-ballet「ロミオとジュリエット」

かつて英国ロイヤルバレエ最年少(21歳2か月)&東洋人初にしてプリンシパルの座に就いた熊川哲也

1998年に10年間在籍したロイヤルバレエを電撃退団した翌年、1999年にK-ballet companyを設立。未だ引退は表明していないまでも、昨今では芸術監督&振付家の黒子としてカンパニーをけん引している、まさに日本バレエ界が誇る至宝。

Forestがロンドンに留学していた2002~3年時、熊川氏は既にロイヤルを去っていましたが、「ルドルフ・ヌレエフ没後10周年」記念ガラで、ロイヤルに戻ってきた彼を連日、観に行きました。あの時、出待ちしていたら、プログラムにサインくらいもらえたかもな~。圧倒的に日本人少なかったし。

彼の持ち味である、天性のバネを活かした、滞空時間長い跳躍に目が釘付けで、「彼は誰だ?Tetsuya Kumakawa?すごいね。」と、隣席でプログラムを見ながら語る英国人老夫婦の会話を聞きながら、「そ~でしょ、そ~でしょ、熊川さんはすごいのよ~。」と、日本人として、鼻高々だった記憶が昨日のことのように蘇ります。海外で同国人を誇らしく思う。。。という経験は、あの時が初めてだったような気がします。

コロナ渦による海外カンパニーの来日公演が滞っている昨今、友人からのご招待を頂き、久しぶりに生バレエ鑑賞の機会を与えられたことに感謝しつつ、熊川氏率いるK-balletの「ロミジュリ」のために、オーチャードホールへ。(オーチャードに行くこと自体が2年ぶり?くらいで、すっかりと変わり果てた渋谷駅周辺の風景にも驚いた!)

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ジュリエット:飯島望未、ロミオ:山本雅也

「ロミジュリ」は、バレエ鑑賞歴20年以上の私、Forestのベスト3に入るほどの大好物演目。何といってもテーマはラブ(それも悲恋)だし、プロコフィエフのドラマチックな音楽も秀逸。二人が愛を確かめる「バルコニーのパ・ド・ドゥ」は、どこか神秘的な演出と音楽が絶妙に絡み合う、超絶ロマンチックな名シーン。バルコニーの踊りだけを一日中観ていても飽きないくらいです。韓国ドラマのラブシーンと同じくらい楽しめます♪

それはともかく!日本人が躍る「ロミジュリ」を観るのが初めてだったForest。このロマンティックバレエは、バルコニーシーンで、気持ちが最高潮に高まった二人がリアルにキスしまくるんですが、果たして日本人は演じきれるのか?というのが、一つの懸念ではありました。

結果、3月17日キャストの山本さんと飯島さんは、きちんとキスしてましたね。オペラグラスでガン見してしまったForestです(笑)。いや、やっぱりね。日本人同志のリアルラブシーンが何か気恥ずかしいのですよね。これが西洋人だと安心していられるのですけど。

実は「ロミジュリ」は、英国ロイヤルバレエが誇る名振付家ケネス・マクミランによって、当時ロイヤルの大スターだったマーゴット・フォンティーン&ルドルフ・ヌレエフのコンビにより1965年に初演された、まさにロイヤルの十八番。そのロイヤルに育まれ、プリンシパルとして世界に羽ばたいた熊川氏が知り尽くした作品と言っても過言ではないと思います。

一昔前は「バレエは西洋のもの。日本人のバレエなんて!」と思っていたけど、やはりそのイメージを変えたのが、熊川氏と同じくロイヤルで日本人初の女性プリンシパルになった吉田都氏(現:新国立劇場の舞踊芸術監督)だったと思う。スタイルでは西洋人に劣るけれども、高度で繊細なテクニックを武器に、世界の舞台で踊ってきた(闘ってきた?)彼ら。ヨーロッパへ留学し、世界各地のバレエ団で活躍する日本人ダンサーが当たり前になった現在ですが、やはりその起点には、この二人を始めとする先駆者たちの涙ぐましい努力があったと思うのです。

・・・と、英国人の振付家による、英国人の作家原作の、日本人による公演を観ながら、先人たちの今に至る長い道のりに思いを馳せたのでした。

話変わりますが、会場であるオーチャード・ホールのロビーには、熊川 "Teddy"哲也氏の等身大写真パネルが!

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ちゃんと彼の隣には、ファンが2ショット写真を撮れるような空きスペースが!あれ?こういうパネルってどこかで見た気が・・・そう。かつての韓国人俳優達のファンミーティングです!つまり、Teddy=韓流スターってこと?立ち位置は同じなんだろうな~。Forestの持論ですが、韓国ドラマファンとバレエファンは「美しいものが好き」という点において、絶対に趣向は同じなんです。だって、他でもない私、Forestがまさにその両ジャンルに長い間、心を奪われているわけですからね。

明日は、別キャストで再度「ロミジュリ」を観に行きます。これまたお楽しみ。

「ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート」★★★☆☆

特にビートルズファンではない私Forestですが、それゆえ彼らのライブ映像も殆どみたことがなく、IMAXでならリアルに演奏を体感できるのでは???という期待で、足を運びました。「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督というのも引きの要素。

Wikipediaから本コンサートの概要を。

ルーフトップ・コンサート ( 英語: The Beatles' rooftop concert) は、1969年1月30日に ビートルズ が イギリス ・ ロンドン の サヴィル・ロウ にあった アップル・コア の屋上で映画撮影のために突如行ったゲリラライヴである。 キーボーディストの ビリー・プレストン を迎え、警察官が演奏を制止するために屋上に上がるまでの42分にわたって行われた。 このコンサートは、事実上ビートルズの最後のライヴ・パフォーマンスとなった。 コンサートでは5曲(テイク数は9)演奏され、道路には屋上を見上げる群衆ができ、近隣のビルの屋上には人だかりができ、中には梯子でアップル社の屋上近くまでやってくる人までいた。

ライブ演奏者としての原点に戻るべく、企画されたコンサートみたいですね。映画自体は90分弱とコンパクトなんですが、ともかく始まる前に「これでもか!」と言わんばかりにIMAXのコマーシャルを何回も見せられます。。。「特別な映画体験をIMAXは約束します!」「床に落ちる針の音から、ジャンボジェットの音まで、ほら?IMAXならこの通り!」みたいな映像が2~3回は入るかな?痺れを切らした隣席のおじさんは「もういいから、早く始めてくれよ・・・」と、独り言ちでいました。Forestも正に同じ気持ち!

映画が始まる前にIMAXの宣伝に精力を奪われたしまったForest。初めてビートルズのライブ?を見たけど、彼らって楽器演奏上手なんですね。(すいません!素人の感想です!)「原点に戻るべく」ってことですから、やはり人気のピークを若くして迎えてしまった彼らは、どこかで空虚なものを抱えていたのかも知れません。「俺たち、こんなに祭り上げられて、どこの国にいってもすごい人だかりに出迎えられて、使い切れないくらい稼いでるけど、なんか浮ついちゃいないか?」って。

撮影された1969年にジョン・レノンは28歳だったと知って衝撃!ものすごい貫禄です。こんな28歳っているのか???そして言わずと知れたジョンの彼女、オノ・ヨーコ(当時35歳)が、ジーザスみたいな、真っ黒ロングヘアーでニコリともせずに、このライブをじ~~っと見守っている。その姿が何だかホラーみたいでね・・・。Forestはヨーコが写り込むとそっちに気を取られてしまいました。さすが海外のバンドだけあって、メンバー全員が彼女同伴なんですが、ヨーコの存在感は中でも抜きんでていたわけで、さすがジョンが選んだ女!日本人女性の誇り!(?)このコンサートの2か月後に2人は結婚してますから、まさにジョンが彼女に夢中だった時期でしょう。

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見よ!右端に写り込んでるのがヨーコだ!

ジョンは、彼女に見守られいると安心して演奏できたんでしょうね。

69年といえば今から52年前ですが、当時のロンドンの街並みとか、「うるさくて仕事できない!」って怒るおばちゃん、「いいじゃないか、ビートルズ好きだねえ」と笑うおじちゃん、その他、行き交う人々の装いなんかも楽しめる映画になってます。ま、でもジョンとポールの2大スターのカリスマはやっぱりすごいなと。

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ジョン28歳、ポール26歳・・・。

それにしても20代でこの老け方。。。なんかKing Knuの常田君を思い出しちゃいました。今も昔も、傑出した才能のある若者は凡人に比べて早々と老成してしまうのだろう。

なんか映画の本筋とはズレたレビューになってしまいましたが、知ったかぶりで語ってもビートルズファンに怒られちゃうので、この辺で。

あ!肝心のIMAXですが、正直、それほどすごいのか?って感じでした。映画が始まる前にあれだけ煽られていたのにも関わらず。というか、宣伝されすぎてむしろ嫌悪感が植え付けられてしまったのかも?だとしたら、IMAX、完全に戦略間違えているよ!

「コーダ あいのうた」★★★★☆

「あまりに感動的だったので、2回目観たいんだけどご一緒にどう?」という友人の誘いで鑑賞。あらすじは大体、頭に入っていたから「想定内の感動作だろうな~」とちょっと覚めた目線だったんですが、もう最後は号泣でしたわ。


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ストーリーはざっとこんな感じ。

海辺の町で暮らす女子高生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で唯一耳が聞こえる。幼い時から一家の通訳となり、家業の漁業も支えてきたルビー。新学期、密かにあこがれているマイルズと同じ合唱部を選択刷るルビーだが、彼女の歌の才能に顧問の教師が気づき、音大受験を勧める。だが、ルビーの歌が聞こえない家族は、彼女の才能が信じられず、家業の方が大事だと大反対。ルビーも悩んだ末に、歌を諦めて家族の助けを続けることを選ぶのだが。。。

この映画に多くの説明は必要ないと思います。

耳が聴こえる、聴こえないに関わらず、親と子供が本気で関わっているか?それに尽きる映画だなと。ルビーの家族はいつも本音。ある意味、親は親らしく、子供は子供らしくない家庭かもしれない。父親はルビーを通訳に医師に自分の「インキンタムシ」の症状を赤裸々に語るし、「セックスは2週間禁止」という医師に「そんなの無理だ!」と娘を通じて伝えるという、開けっぴろげさ。羞恥心のかけらもありません。でも、そんな明け透けな両親をルビーは愛しているし、いつもケンカしているけど、お互いを思いやっている。

しかし、せっかくのルビーの美声が、ファミリーには聴こえない。なんと悔しいことでしょうか?高校のコンサートでソロを務め、他の父兄に拍手喝さいを浴びる娘の声が聴こえない・・・両親の悔しさたるやないでしょう。ここで女性監督のシアン・ヘダーは見事な演出を見せます。つまり、ルビーの歌声、その他の音声を一切オフにするのです。観客は数分の間、無音の映画に向き合うことになる。静まり変える劇場。いつもはドルビーサウンドが響き渡っている劇場には、明らかな違和感です。

しかし、「これがルビーの家族が生きている世界だ」と監督は観客に伝えたかった。そして私もそれを体感しました。無音の世界。この数分のシーンがこの映画をさらに素晴らしいものにしています。

耳が聴こえない人の、独特のやり方で、娘の歌を聞き取ろうとする父親。いつまでも子供だと思っていた娘を手放せない、子離れしていない母親。そして、いつも悪態ばかりだけど、妹の才能を一番に信じ、家族の犠牲になるな!と背中を押す兄。

最高の家族ではないでしょうか?音大のオーディション会場に家族が潜り込んだのを見たルビーは、ある方法で歌を彼らに伝えようとします。果たしてルビーの歌声は、聾の家族にどうやって聴こえるのか?

もうこの辺りから、Forerstは嗚咽に近い号泣で、臨席の人たちにもかな~り怪しまれたいたはず・・・(お恥ずかしい)。もう、最近どの映画観ても泣いてしまうのよ。これも加齢現象?すべてを加齢で収めようとする癖は良くないが。

いやはや、感動作であることは想定内だったけど、その演出、俳優の演技力は想定外でした。

父親役を演じたトロイ・コッツァーは、自身も聾でありながらプロの役者としてキャリアを重ねている俳優。今年度のアカデミー助演男優賞にノミネートされています。母親役のマーリー・マトリンは、その昔「愛は静けさの中に」(87年日本公開)で、聾者の女性として初めてアカデミー主演女優賞を受賞した人物として、Forestの記憶にも刻まれていました。当時中学生だったForestは、この映画の存在を知りながらも、なんとなく陳腐な(?)邦題と、ちょっとシリアスなテーマを敬遠して、映画館には行かなかった。。。でも、この映画で共演したウィリアム・ハートが、マトリンと恋仲になり、一時期同棲してたというニュースなどは何故か覚えていた。既にこの頃からゴシップ好きの片鱗が。。。

はい、ともかく!ぜひお父さんにはアカデミー賞を獲って頂きたい!2022年、まだ3か月しか経っておりませんが、一番泣かされた映画です。あと9か月で「コーダ」を上回る映画に出会えるか?!乞うご期待。

 

ソロ活女子多数発見!~箱根「養生館 はるのひかり」~

Forestが務めている会社には「シーズン休暇」という有難い制度があり、3月までに残りの2日を取得しないと消えてしまう~!ということで、急遽、予約の取れた「養生館 はるのひかり」へやって来ました。

この宿は基本的に2泊以上「逗留」して、慌ただしい日常から離れて、ゆっくり養生することをおススメしています。もちろん、事情が許せば長逗留したいのは山々なんだけど、土日は殆ど空いてない人気宿なので、1泊もやむなし。

長年の付き合いである後輩が大いにレコメンドしていた宿なので、いやがおうにも期待は高まります。

まずは養生館の説明を簡単に。

昭和21年開業、約70年の歴史を持つ温泉宿。

大正初期、財界人の間で数寄茶の趣味が広がった時期に、旧三井財閥中枢の、三井合名の重鎮であった有賀長文氏が、広大な茶庭に茶室を配した別邸として構築された場所の一部でした。温泉宿としては、茶室を客室に一日一組。。。というのが始まりだったとか。今は建て増し、リノベーションを重ねて、十数室のこじんまりした宿となっていますが、週末はいつも予約が埋まっている超人気宿。

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「何もしない一日」を推奨し、「22時以降はお静かに」「お遊び目的の方はお断り」という姿勢を貫いており、コロナ渦以前から「ソロ活」する人々の心をギュッと鷲掴みにしてきたことが伺い知れます。

お部屋に通されて驚いたのが、その広さ。

10帖の和室にコタツ、加えてちょっとした書斎スペースや、山の景色を一望できる窓を望む場所にロッキングチェアが!ここでなら、いくらでも小説が書けちゃいそうです。「ちょっと締め切り迫ってるんで、箱根で籠ってきますわ~」的文豪、脚本家先生気分も味わえます。

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しかも、Forestが通された「桜」と名付けられたこのお部屋は最上階のため、階下への騒音に配慮するため、通常はおひとり様限定なんだとか!贅沢~!

食事も、野菜中心の養生食。もちろん玄米です。

毎晩必ず晩酌をするために、家で米というものを食さないForestにとっても、玄米はかなり美味しかったです。

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で、食事内容よりも、Forestが興味津々だったのは、食事処にはどんな人々がいるのか?ってことですよ。

今日宿泊の17名の内、14名は女性という情報は、すでにスタッフから得ている。(いや、向こうが勝手に教えてくれたんですよ!)「自分に向き合いたい」ソロ活女性が多いことは想像に難くない。それではどんな年齢層、風貌なのだろうか?ということで、自分のことはサ~っと横に置いておいて、人間観察に余念がなかったわけです。

まず、3人いると思われる男性客は、声は聞こえど姿見えず。コロナ対策で席の設置が工夫されすぎていて顔が見えないのもあるけど、こういう所に一人で来る男性ですから、まず影が薄いんでしょう(超失礼!)。誰にも会わなかった。。。声は聞こえるのに。男性よ、いずこ?

ということで、目に入るのは全員女性たち!Forestと同じソロ女性たちです!おお~、これは壮観。だって、妙齢の(おそらく30後半から60代と思われる)女性たちが、皆一様に浴衣姿で黙々と玄米を噛みしめているわけですよ!これはシュール。これは一見の価値あり。って自分もPart of themですが(笑)。

でも、Forestはここに泊まって一緒に養生食を食べている女性たちと、絶対に仲良くなれる自信があるな~。是非お話ししたい。。。けど、ここは一人で静かに過ごさなきゃいけない場所。帰りの駐車場で話かけるか。(ナンパ?)

ま、それは冗談として、Forest的女性(40代、独身、経済力あり、自分見つめなおしたい、人生にまだ迷ってる?私、どうしたらいいの?一生懸命頑張ってて、私ちょっと疲れた・・・と思ってる方々)へのマーケティングには、この宿のお客さんたちがベストターゲットなんじゃないか?と思いますね。

やっぱり少し視点の変わっているForestは「玄米をゆっくりと噛みしめてみたら、これまで気づかなかった甘みを感じました。自分に向き合うことができました!(キラッ!)」という気付きでは終われないんですね~。さて、明日の朝食は、明るい陽の光で、宿泊者のお顔がよりハッキリと見えるはず。明朝を楽しみにしつつ、もう一回温泉に浸かるとします。

「The way we were~追憶」で号泣 ★★★★☆

鎌倉の川喜多映画記念館では、1月から「崩壊と覚醒の70年代アメリカ映画」という特集上映が続いています。

スクリーンで70年代の名作を鑑賞できる機会は超貴重。

というわけで、最近の週末は専ら川喜多詣でをしております。

 

本日の一本は1973年公開の「追憶 (The Way We Were)」。

 

30年くらい前にビデオで観たのですが、大まかなストーリーしか覚えておらず(汗)。

この映画をもう一度観たいと思った理由の一つは、Forestのオールタイムフェイバリットドラマ「Sex and the City」で、主人公の3人が大好きな映画として挙げられるから。そのシーンはこちら。


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ヒロインのキャリーが腐れ縁で付き合ってきたプレイボーイ、Mr. Bigが、キャリーよりずっと若い女性と3度目の結婚をする。

「どうして彼女なの?」とバーで仲間に問いかけるキャリーに、ミランダは「答えはたった一つ、ハベル(「追憶」の主役ロバート・レッドフォードの役名)よ」と告げる。

 

「そう!その通りよ!ハベルよ!」と盛り上がるキャリーと仲間たち(除くサマンサ)。みんながこの映画大好きなのです。そして、あまりにも有名なテーマソング「The Way We Were」をバーで大合唱する3人。

 

詳細忘れていたゆえ、「これは、何が”ハベル”なのか?」を知る良いチャンス!とばかりに、川喜多へGoしたわけです。

 

結果・・・もう途中から、嗚咽に近い号泣で、ハンカチが手放せませんでした。

「こいつ、なんでこんな泣いてるんだ?」と、隣の席の人に怪しまれていたかも。。。

 

あらすじはこんな感じ。

学生運動の女闘士と金持ちのエリート青年、育った環境も信条も全く違う2人だが、惹かれあい結婚する。しかし「赤狩り」の時代が到来し、映画の脚本家としての道を歩もうとしていた彼の身にも暗い影を落とし始める。。。

誰もが恋愛やスポーツにうつつを抜かしている平和なキャンパスで、一人政治運動に意欲を燃やすケイティ(バーバラ・ストライサンド)。アルバイトを掛け持ちしている苦学生の彼女はしゃれっ気もなく、ちりちりのカーリーヘアーがトレードマーク。

声高に理想主義を叫ぶ彼女は大学でも浮いた存在で、同級生からは冷ややかに見られているのですが、「周りからどう思われようと関係ない!自分の主張は曲げない!」という姿が実にカッコいい。

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これが、ちりちりカーリーヘア!

一方、ブルジョワ出身のハベル(ロバート・レッドフォード)は金髪碧眼の絵に描いたようなWASPの若者で運動神経も抜群。周りにはいつも美女を侍らせ、安易な(=Easy。この単語、映画の中で多用されます。)大学生活を謳歌しているお坊ちゃま。

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Wって、Wasedaじゃないよ!

水と油のような2人ですが、共に履修していた「短編小説」の授業で、ハベルの書いた小説が最優秀作品に選ばれ、小説家志望だったケイティは、密かに彼の才能を認めている。

学生時代は交わることのなかった2人の道が、第二次大戦中の再会によって交差し、何回かの危機を経て、結婚にまで至るわけです。

自己主張が強く決して折れないタイプのケイティは、ハベルのブルジョワ仲間たちにもすぐにケンカを吹っかけてしまい、うまく付き合うことができない。こんな彼女がいたら、ハベルも頭痛いわな。。。

どこでそんなに泣いちゃったのさ?というと、まずは、ハベルの仲間たちが学生時代の8ミリ映像をみんなで観ているシーン。いつもながらの演説をぶっているケイティが映し出されます。ケイティが軽薄だと毛嫌いしている、ハベルの親友JJが「ケイティは本当に演説が上手だった。She was so bestutiful.」って言ってるシーン。

彼らはケイティをバカにしてはなかった。むしろ、周りに迎合することなく、しっかりとしたポリシーを大人数の前で主張できる彼女が羨ましかった。

先に妻と離婚することになったJJは、ケイティとうまくいっていないハベルに「(自分の離婚なんて)お前がケイティを失うのとは訳が違う」と諭します。それだけ、ケイティがハベルにとって精神的な支柱になっていることを、きちんとJJは理解している。ここも物語のポイントですね。ケイティが嫌っていたブルジョワの彼らが、実はケイティの本質を見抜いている。人を外見や第一印象で判断しているのは、ケイティも同じなわけです。

それにしても、当時37歳!(大学生役やるには多少の無理が。)のロバート・レッドフォードの美しさときたら、表現する言葉を失いますね。あのブルーアイズで見つめられたら、誰でもコロッといってしまうでしょう。また白い海軍の制服が似合うんだなあ。ダンガリーシャツをさらッと着ているだけでも絵になってしまう。

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ブラピに見えるなあ。

鼻でっかち(失礼!)のバーバラ・ストライサンドとは不釣り合いだと思ってしまうのだけど、だんだんと彼女が可愛く見えてくるんだから、まさにマジック。

Sex and the City」の彼女たちが「見るたびに泣いちゃう」と言っていたラストシーン。Forestも滂沱のように流れ落ちる涙を抑えることができなかった。

一人娘を設けたものの離婚。

10年後に2人は街で偶然に出会う。ハベルは若く美しい(そしてストレートヘアの!)の妻と一緒に、ケイティは相変わらず「原水爆反対!」のビラを配っている。ハベルと結婚していた時は、ヘアアイロンでストレートヘアにしていたケイティだが、天然パーマのカーリーヘアに戻っている。

ここもポイントですね。彼女はハベルといた時は、どこか取り繕っていた。本来の自分でいられなかったのでしょう。彼のことを愛していたけど、どうしても溝は埋められなかった。

彼と別れて、ヘアアイロンを使うこともやめ、素に戻ったということですね。

そして相変わらず何かしらの社会運動に身を投じている。変わらないなあ~、でもそれがケイティだし、ありのままの彼女を受け入れられなかったハベルは、彼女から離れるしかなかった。切ない、切なすぎる。

そこでハベルの若い妻を見たケイティの一言、「Your girl is lovely.」

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Your girl is lovely, Hubell.

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ハベルの頬をそっと撫でるケイティ

Sex and the City」のキャリーたちによると、「世な中にはケイティガールとシンプルガールの2種しかいない。私(キャリー)はケイティガールなのよ!(結婚するには面倒くさいタイプってこと)」ってことらしいですが、大いに納得しますわ。

サマンサには「Chic film!(女々しい映画)」とバカにされてましたが、こんなに映画観て泣いたのは久しぶりで、どっと疲れてしまった。。。

もう内容忘れないです。しっかりと脳裏に刻み込まれました。

10年後くらいにまた観たい気持ちになるだろうな。ケイティみたいに主張を曲げずにいられる女性はみんなの理想像なのだろうと。今、彼女がいたら「ウクライナ反戦」を訴えていたに違いない。ニューヨークの街角で、今も何かを主張してビラを配っているケイティがいるような、そんな気がしてしまう映画。

監督のシドニー・ポラックはアカデミー作品賞と監督賞を受賞した「愛と哀しみの果てOut of Africa)」「ハバナ」でもロバート・レッドフォードと組んでます。他にもダスティ・ホフマンの女装が話題になったコメディ「トッツィー」などのヒット作を監督として世に出しただけでなく、プロデューサー、俳優としても数々の作品にクレジットされてます。

今回、改めて彼の関わった作品を見ると、Forestも観たことのあるラブロマンスジャンルが多い。韓国ドラマ好きのForestのもろタイプの監督だったのだな・・・と実感。惜しくも2008年に73歳でこの世を去った監督は、ウクライナ移民のユダヤ人家庭出身。

「恐ろしいのはソ連でもフランコでもない。世の中で起きていることに無関心な人々です!!!」と叫ぶケイティの言葉は、まるで今を生きる私たちへのメッセージのような気がしました。